菱餅にまつわる悲しい物語
3月3日の桃の節句に欠かせない和菓子といえば菱餅。緑、赤、白の三色に彩られた清らかなお菓子にはどんないわれがあるのでしょうか?
その昔、インドで大きな川に橋をかける工事が行われていましたが、度重なる洪水で工事は遅々として進まず、皆頭を抱えていました。そこへ天狗が現われて、それは川底に住む竜の怒りであり、その怒りを静めるためにかわいい女の子を捧げるようにと伝えました。
ある年のこと。いつものように荒れた川を静めるためにやってきた天狗は一人のかわいい女の子を見つけます。けれどもその子は、すでに7人の娘を竜に捧げたある農夫の末娘でした。どうかこの娘だけは助けてほしいと懇願する農夫は、代わりに菱の実をさしだしました。菱の実は子供と同じ味がするといわれていた食べ物でした。子を守ろうとする親の思いに心を動かされた天狗は、これなら竜も満足するだろうとその菱の実を持ち帰ったのです。その後は川も静かな流れに戻り、人々は以後菱の実を竜に捧げるようになったといいます。
菱餅を雛飾りに供える風習は、このインド仏典の説話にならったもので、緑・赤・白の3色は、健康・魔除け・清浄を表わすといわれますが、古くは赤は竜に捧げられた犠牲者が流した血を象徴していたのだそうです。子供の命を救ってくれた菱の実に感謝すると共に、犠牲となった女の子の霊をなぐさめるものだったのです。
華やかな雛飾りに込められた昔からの人々の思い。そこには無事に成長してほしいという愛娘への切なる願いが込められていたのです。